CASE2

潜在的ニーズの発掘から導き出された新たな価値

 オタフクソース株式会社

ひろしま感性イノベーション推進協議会は、感性に訴えるものづくりの実現のため2014年に設立、人間のもつ「感性」という新たな価値軸を活用した製品の差別化による高収益構造の実現に向け、感性工学や人間工学を取り入れたものづくりを推進することを目的とし、普及啓発、人材育成、専門家派遣、企業支援などを行っている。

ここでは、同協議会発行の『感性イノベーション成功事例集』で紹介される4社の成功事例より、自社製品PRイベントでの行動観察をきっかけに、感性に響く新たな価値創造を行ったオタフクソース株式会社(以下、オタフクソース)のケースを、ひろしま感性イノベーション推進協議会 研究実装プロデューサーである一般社団法人感性実装センターの目線で読み解く。※ “ ” は『感性イノベーション成功事例集』からの引用


プロローグ

出所:ひろしま感性イノベーション推進協議会[2017]『感性イノベーション成功事例集』pp.6-7.

オタフクソースが販売する子ども向け商品「1歳からのシリーズ」は、消費者の生活行為を変容させる新しい提案とメッセージ性をもつ、感性に訴える商品といえる。

 

同社では、地域・社会貢献の一環として、家庭用のお好み焼き教室や、食育などに積極的に取組んでいる。また、食物アレルギーや食文化の多様性に対応した商品の開発にも力を入れ、同社が発信する食文化を国内外に積極的に広める活動を展開。同商品は、これらの取組みの中で行う行動観察がきっかけとなり誕生した。

 

行動観察とは、定性調査の手法の一つである。消費者の潜在的ニーズを探る方法として有効で、感性に訴えるものづくりでも用いられる。同社はこの手法を活用し、どのようなプロセスで商品開発を行ったのだろうか。


潜在的ニーズの発掘

はじまりは、同社が主催する親子参加型のお好み焼き体験イベントで、“小さい子ども連れの母親” が、“子どもにはソースをつけずに食べさせていた” ことだった。親子で楽しめ、商品のPRと同社が取組む食育にもつながるイベントだ。ところが、イベントで実施したアンケートや聞き取り調査の結果から「味が濃い」などの理由で、“そもそもソースにポジティブなイメージがない” という、同社にとっての本質的な課題に気づく。

 

そこで同社はまず、“親が子どもに食べさせて安心なソース” というコンセプトで、幼稚園から小学校低学年の子どもをターゲットにした商品を展開する計画を立てる。子どもも料理(お手伝い)に参加できるという食育の視点も意識している。

しかしその後、同社が蓄積してきた過去のアンケートデータから、“子どもの食事の悩みはアレルギーに関するもの” が多いことを発見する。よって、商品のコンセプトを “アレルギー対策“ に、ターゲットの年齢も “アレルギーが最も出やすい3歳くらいまで” に修正した。

しかしそれだけでは、“子どもの頃からお好み焼きに親しんでもらい、お好みソースのファンになってもらう” という同社のビジョンの実現には繋がらない。そこで、育児書などから潜在的なニーズを探し、“離乳食完了期にお好み焼きと一緒に食べてもらえるソースをつくろう!” と、ターゲットを1歳まで引き下げる再修正を行っている。このコンセプトとターゲットの設定商品であれば、親は安心して子どもに与えることができ、先述の本質的な課題の解決にもつながる。

 

こうして出来上がった試作品で、モニター調査が行われた。その調査結果と、改めて過去のアンケート結果を見直し導出されたのが、 “ソースで子どもの食事や栄養が改善されることを目指そう” という新たなテーマだ。アレルギー対応(食の安全・安心)に加え、栄養価が高いという付加価値をつけることで、子どもの食欲や偏食などの親の悩みに応える商品となり、新たな市場の創出につながった。これが、この商品の開発における最大のポイントともいえるだろう。

創出した価値が呼び込んだ新たな市場

出所:ひろしま感性イノベーション推進協議会[2017]『感性イノベーション成功事例集』pp.8-9.

このように、コンセプトおよびターゲットの設定を柔軟に修正しながら開発を進め誕生したのが「1歳からのお好みソース」だ。同商品は口コミを中心に広がり、その後「1歳からのシリーズ」として、ケチャップソースやハンバーグソースなどバリエーションを増やす。現在は、栄養成分に関するガイドラインの基準を満たしていることを示すマークをパッケージに付すなど、より消費者にコンセプトが伝わりやすいよう工夫されている。

 

特筆すべきは、文化・地域性の差が出やすいと言われる食品において、“お好み焼文化が少ないエリアでも、子どもの調味料として売れている” ことである。

また、もともとターゲット層として設定はしていなかった高齢者、介護施設からの問い合わせがあったことも興味深い。同商品のシリーズ化後に、減塩、糖質オフ、オーガニックなど、健康を気づかう層や食の多様性にも配慮した商品の開発にも取組んでおり、新たな販路の開拓に繋がった様子がうかがえる。


エピローグ

オタフクソースの事例は、ソースを “子どもに食べさせたくない” という同社が考えもしなかった課題の気づきからスタートし、親が子に「むしろ積極的に食べさせたい」という新たな感性価値をもつ商品へと昇華させている。既成概念に捉われず、柔軟にかつ粘り強くコンセプト及びターゲット設定を行う活動が結実した結果だ。

 

行動観察をはじめとする定性調査と、アンケート調査などの定量調査を組み合わせ、消費者の潜在的ニーズを発掘・検証することで、広く人々の感性に響く商品へと成長させた、好事例である。

 

2023年6月

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