感性実装トピックス
木との触れ心地を追求した「ピノアース足感フロア」
株式会社ウッドワン
開発ストーリー
“触れ心地”にこだわった無垢フローリング「ピノアース足感フロア」。
日々の暮らしで人が毎日触れる床だからこそ、「木」の心地よさをもっと感じてもらいたい。
無垢建材業界No.1*1の企業が生み出した、床材の新しい感性価値。新境地を切り拓く新たな挑戦を辿っていく。
「このフローリングは、木の味わいや心地よさが感じられるよう、凹凸のあるデザインに仕上げています。触れ心地はいかがですか?」
「こんなデザインの床は、はじめて見ました。足裏の刺激も心地よいですね。なんだかあたたかくてほっとする感じもします。この床はどんな部屋におすすめですか?」
設置されたフローリングを踏み込みながら、ショールームスタッフと和やかに会話する夫婦の姿。
表情豊かに表面加工が施されたこの無垢フローリングは、株式会社ウッドワンが「素足で触れる木の心地よさを感じてほしい」と、通常のフラットな床材では実現できない、触れ心地を追求し生み出した「ピノアース足感フロア」だ。
意匠の異なる6種類の無垢フローリングは、その表面加工の違いにより、それぞれ特徴のある“踏み心地”が感じられる。素足で歩けば、木目の素材感を際立たせるよう加工された凹凸から感じられる、心地よい刺激やあたたかさが足裏を包み込み、思わず寝転びたくなる。
太平洋の南西部ニュージーランドで、約40,000ヘクタールにわたって整然と広がる森林。「ウッドワンの森」と呼ばれるこの地で育てられているのが、「足感フロア」の原材料となるウッドワンオリジナルの無垢材「ニュージーパイン®」だ。
「ウッドワンの森」では、小さな苗木から約30年のサイクルで計画的に植林・間伐を行い、手間ひまかけて品質の高い「ニュージーパイン®」を育てている。30年の歳月をかけて大きく美しく成長した「ニュージーパイン®」は、あらゆる部位を余すことなく使い、独自の技術でさまざまな建築用材へと加工される。
その「ニュージーパイン®」の柾目*2を基材とし、木肌の美しさや素材感、心地よい質感を追求した「ピノアースシリーズ」は、まさにウッドワンのアイデンティティを体現した製品だ。
中世から有数の木材の集積地として発展してきた広島県廿日市市。製材業、住宅産業、家具関連産業が盛んなこの地に本社を構える株式会社ウッドワンは、廿日市市北部に位置する佐伯郡吉和村(現在の廿日市市吉和)に端を発し、1935年以降、木材業を礎にして、フローリング・建具・階段材・収納など、住宅部材の木質総合建材メーカーとして発展してきた。
1990年に、ニュージーランドで現地法人を設立。植林・育林・伐採、そして再び植林する循環型の森林経営を構築。日本国内の再造林*3率が30%程度にとどまるなか、100%の再造林を行うなど、サステナブル(持続可能)な循環モデルをいち早く取り入れてきた。
木を育て、加工し、製品化する一貫生産体制は、創業以来85年以上、自然と人との調和から生まれる心地よさを提案し、新しい木の文化を創造してきたウッドワンの理念そのものだ。
木を通して、安心で良質な住まいづくりを目指してきたウッドワン。木を扱うプロとして、上質な生活機能を備えた床材をはじめとする木質建材を開発する中で、ある課題に直面する。
「私たちはお客様に対し、ほんとうに “木の良さ”を訴求できているのだろうか。」
「あたたかみがある(熱伝導率)」「部屋の湿度を整えてくれる(調湿性)」「足にやさしい(衝撃吸収性)」など、一般的な木質の特徴を機能的に説明するための数値データはある。
しかし、実際に木に触れることで人が感じる感覚的な良さは、“なんとなく”でしか伝えられていないのではないか。
木と真摯に向き合い無垢材にこだわり、木の良さを追求し続けてきた企業が、いま一度その価値について本質的に検討していく必要があると、舵を切った。
まずは、これまで木に対する機能的な計測を行う際に支援を受けてきた広島県立総合技術研究所を通じ、広島大学の触感や感性に関する研究者に相談した。
木の価値を再検討するために、市場での無垢床材の現状などを研究者に伝えることから始まったが、研究内容がすぐに定まったわけではない。企業が抱える実務的課題を研究者に正確に伝え、感性研究の枠組みで相互理解することはすぐには難しかった。
この状況下において、ウッドワンの想い・目標や実務的課題と、研究者の学術的・技術的な知見をつなぐ、インタープリター(翻訳・解釈者)の役割を担ったのが、感性実装センターだった。
感性実装センターは、企業の目指すべき課題解決に応じた研究者の選定提案やプロジェクトマネジメントを行う。「感性」に関する基礎研究を企業のものづくりや製品開発プロセスに組み込み、社会実装する一連のプロセスを、企業に寄り添いながら実務研究者の視点でサポートできるのが特徴だ。
最初に行われたのは、ウッドワンの課題の整理と想いのヒアリングだ。企業と研究者の知見を翻訳しながらつなげるプロセスが重ねられる。そして、木の本質的な良さを伝えるために実現すべき検討視点に気づく。
それは、木に触れたことで人が感じる感覚的な良さを可視化することだった。人が多くの時間触れる床材だからこそ、感性に着目した研究には価値がある。その答えに辿りついた瞬間、一本の道がみえた。“なんとなく”肌で感じる木の良さを伝え、その感動を共有するものさしが、未だ世に存在していない。人の感性を軸としたものづくりが始まると、プロジェクトのチームメンバーの胸が高鳴った。
こうして、ミッションの共有がされ、研究の枠組みが決定。研究者と企業担当者から成るチームが編成、プロジェクトがスタートされた。
感性評価実験*4では、無垢フローリングと接する人の行動をしっかりと観察。表面の加工形状が異なる床材の上を歩いたり座ったりと、被験者には普段と同様に一定時間過ごしてもらい評価が行われた。実験から得られたデータから、摩擦や足底の温度感、踏み心地などの要素を解析した結果、人が無垢の床材を評価するときに重視している感性要素を5つに絞り込んだ。それが、「リラックス感」「リフレッシュ感」「足触り(やわらか・なめらか)」「踏み心地(凸凹感)」「歩行感(フィット感)」である。
ここからさらに、多くの人に伝わりやすい、シンボリックな感性価値要素を導出していく。この過程で重要なのは、評価データの扱いとその解釈だ。例えば「リラックス感」の一語でも、それが安心感によるものか、それとも癒しによるものか、人によって解釈は異なる。チーム内で研究者と企業担当者が一丸となり丁寧な議論を重ね、何度も解釈のすり合わせを行った。
こうして生まれた感性価値の指標が、「ほっこり」「シャキッと」「まろやか」「くっきり」「ぴたっと」だ。この5軸をレーダーチャート化したのが「足感チャート」だ。
製品開発において追求した無垢の床材に対する触れ心地や木の良さ。伝えたかったその価値は、軸上にプロットされた各感性指標が、表面加工の違いによるそれぞれの特徴を説明する役割となる。
ここに、感性を尺度に製品価値を伝え、企業と消費者が同じ指標でインタラクションできる「新しいものさし」が誕生した。
「歩いても、横になるにもちょうど良い触れ心地の『オビノコ』は、家族が集まるリビングやダイニングにおすすめ。なだらかな曲線が遊び心を感じる『ウェーブ』は、リビングや子供部屋に使ってほしい。」と話すのは、商品企画開発部の間宮氏。このプロジェクトの中心人物の一人だ。
こうして、人の感性に着目し、木の素材そのものの魅力を最大限に引き出す「デザイン」と「足触り」を追求した結果、意匠性のみに依存しない床材の新しい価値創造を実現させた。
従来からの木の価値といえば、木材を扱う建材業や住宅産業において、木そのものの品質や機能、性質などを価値として提供しているのが一般的で、無垢建材業界No.1のウッドワンにおいても、それは例外ではなかった。
床材は住空間を構成する要素の中で面積が大きく、そこに暮らす人々が直接触れる部分である。しかしながら、壁材ほど情緒的な関心やこだわりをもたれにくく、耐久性や防音性などの機能面、意匠性や色合いで選定されることも多い。商空間においても、それは同様の傾向だ。
そのような床材市場において、今回ウッドワンが挑戦し実現させた感性価値の創造は、無垢の床材に対する従来からの価値基準に一石を投じ、消費者が自らの感性を拠り所に床材を積極的に選定できる新たな価値基準の提供だ。
木の心地よさをもっと感じてほしい、との想いから誕生した、新しい感性のものさし。このものさしを頼りに、提案者は消費者にデザインによる“触れ心地”の違いを伝えることが可能となり、消費者は日々の暮らしや床材に触れた時の心地よさをイメージしながら選ぶことができるようになった。
ウッドワンがこだわり続けてきた、木と人との調和から生まれる心地よさの提案。今まで“なんとなく”でしか伝えることができず、もどかしさを感じていた、木に触れる時に感じる感覚的な良さ。
木という素材の良さを、より感じることができるように施された表面加工のバリエーション。その指標を示した、新しい感性のものさしが、今まで感じていたもどかしさを解決に導き、商品の特徴や価値を際立たせている。そして何より、ウッドワンのアイデンティティや製品に対するこだわりを、消費者と共感し合うことが可能となったのである。
あの日、ショールームで「ピノアース足感フロア」を踏みしめ、これからの暮らしに夢を膨らませていた夫婦にも、ウッドワンの想いは伝わったに違いない。
人の感性に着目したものづくりの世界へ踏み込んだ彼らの挑戦ストーリーは、これからも続いていく。
ライター:山崎志織
*1 業界No.1:株式会社ウッドワン調べ(https://www.woodone.co.jp/company/recruit/data/)
*2 柾目:均一でまっすぐな木目(木の模様)のこと、端正で落ち着いた表情が楽しめ、反りにくく狂いも少ない
*3 再造林:人工林を伐採した跡地に再び苗木を植えて人工林をつくること
*4 感性評価:人の感性を定量的に可視化し、製品やサービスの開発や設計に生かすデータを得るための手法のこと
ピノアース足感フロア
「足感フロア」は、木のプロであるウッドワンのこだわりの結晶「ピノアースシリーズ」から、新たに意匠を凝らした“デザイン”と素足での“ 触れ心地”にこだわって誕生した。「踏み心地」や「足触り」など、素足で触れることで感じられる、木の味わいや心地よさを、感性の新たなものさし「足感チャート」で訴求する。
株式会社ウッドワン
1935年広島県佐伯郡吉和村(現在の廿日市市吉和)にて木材業として創業。以来、キッチン・建具・床等の住宅部材をトータルで提案する木質総合建材メーカーとして発展してきた。
1990年にニュージーランドに現地法人を設立。100%再造林を行いながら30年かけ育てたオリジナルの無垢材「ニュージーパイン®︎」は、余すところなくあらゆる部位を独自の技術でさまざまな建築用材へと加工。無垢建材業界No.1企業として、持続可能な社会の実現にも貢献している。
インタビュー
株式会社ウッドワン
商品企画開発部 商品企画室
商品企画課 プロダクトマネージャー
間宮僚太郎
Q 本プロジェクトがスタートしたきっかけや経緯についてお聞かせください。
ウッドワン(WOODONE)=「木(WOOD)」と「人(ONE)」を社名とし、「木のぬくもりを暮らしの中へ」をコンセプトに、製品開発を行っております。しかし、その一方で「無垢の木の良さ」を、どのようにエンドユーザーに伝えていくかが課題としてありました。
カタログなどの紙面やWEB上でその雰囲気は伝えられても、無垢材が本来持つ触れ心地、心地よさ、ぬくもりは伝えられていないのではないか。それらを可視化して伝えることはできないか。住宅に使われている、いわゆる建材の中で人が常に触れている床材から、製品がもつ感性的な価値をしっかりと伝えていきたいと考え、本プロジェクトがスタートしました。
Q 本プロジェクトを通して、企業内で意識の変化があればお聞かせください。
これまでは、ドアや床材など商品群ごとに、求められる指標・コンセプトが異なっていました。しかし、今回「感性」に着目したことで、「無垢商品」として1本の軸を形成できたのではないかと感じています。
また、部署ごとに単独で動くのではなく、一つのコンセプトや目標のもと共同で走ることにより、それぞれの持っている知識をお互いに吸収することができ、企業としてさらに成長できたのではないかと感じています。
Q 市場の反応はいかがでしょうか。また、ステイクホルダーへのメッセージもお聞かせください。
展示会などで実際に踏み心地を試していただくと、「足裏の刺激が気持ちいい!」など、たくさんの嬉しいお言葉をいただけます。体感していただくことで、感性価値の5つの指標をレーダーチャート化した「足感チャート」をより理解していただくことにもつながり、傷のつきにくさなどの「機能性」が重視されていた床材に、心地よさなどの「感性」を切り口とした評価軸が出来たのではないかと感じています。また、住宅の他に宿泊施設などにも採用いただき、販路も広がったのではないかと思います。
メディアでも複数取り扱っていただき、素足で触れる無垢床材の心地よさ、人が受ける感性の可視化に関して、これまでにない新しい取り組みとして注目をいただいていると感じています。
今後、樹種(素材)の違いによる感性に着目した比較も行えればと思っております。
株式会社ウッドワン
技術開発部 基礎開発課
往藏麻衣子
Q 感性評価実験の担当者として苦労された点、また「足感チャート」が出来上がった時の喜びについてお聞かせください。
今回の実験は商品企画開発部との連携が不可欠でした。技術開発部としてはこれまで多少の知見がありましたが、他部署と連携した実験は全社的にはじめての経験でしたので、感性評価とはどういうものか、という社内説明から始まりました。実験における一連の流れの具体的なイメージ共有はもちろん、実験データをコンセプトに合致した形でその先のアウトプットへ効果的につなげるための事前検討の大切さなど、部署間で共通理解を得られるかが最初の課題でした。
その上で、「お客様にアピールしたいところはどこか」「どのような形でデータを活用したいか」など、ウッドワンとしての想いを共有し実験内容に反映するために、社内で打合わせを重ねていきました。タイトなスケジュールの中で部署間のチームワークは高まり、チーム一丸となって取り組むことができたと感じています。
自分たちで実験を組み立て、被験者を相手に実験を行い、データをまとめて解析するというのは、実際にやってみるとやはり大変な作業でした(重労働しているわけでもないのに、実験終了後には皆疲労困憊でした・笑)。また実験前は、うまく結果を導き出せるデータが取れるか不安でしたが、先生方のサポートをいただきながら、解析結果を「足感チャート」という納得いくかたちでまとめることができ、喜び…というよりは一安心、といった気持ちです。ぜひ多くの方に、本プロジェクトの結晶である「足感チャート」をご覧いただけると嬉しいです。
Q 各研究者との連携を通して、新たに得たもの、また技術開発部の立場で、製品を見る視点などで変化があればお聞かせください。
技術開発部には感性評価実験の経験が多少あったものの、実験計画から被験者募集、実施、解析までの一連を自分たちで行うことははじめてでした。それでも、農澤先生をはじめ研究者の方々とチームとして連携し、アドバイスをいただきながらやり遂げることができ、担当個人としてもウッドワンとしても、大きなノウハウを蓄積できたと思います。それは単なる実験方法の習得だけではなく、感性評価の活用方法や実装は個々の製品開発に限らないこと、感性実装を社全体として取り組むことによる可能性の大きさを知ることができました。今回は床材が対象でしたが、メーカーとして活用できる場面はもっといろいろありそうだと感じています。その時に「やってみよう」と、自分たちですぐに動き出せる土壌ができたことは、大きな成長でした。
また、先生方と話すなかで、個人的に特に感じたのが、製品開発の軸をしっかり持つことの大切さです。最終的なアウトプットや開発者の想いといった軸となるものを具体的にイメージし、それを計画や実験に反映していくこと。開発業務に限らず、当たり前の大事なことではありますが、常にそれを意識することの難しさと大切さを改めて考えさせられました。
マテリアルデザイン研究協会理事
/広島大学教授
栗田雄一
Q 本プロジェクトは研究者が3名参画されていますが、対象に対する学術的・技術的貢献について、専門領域の視点からお聞かせください。
「ハプティクス」と呼ばれる、触感や力感に関する研究分野に20年以上取組んでいます。触感は、数値化や言語化が難しく、他人と共通認識を持つことが難しい感覚です。本プロジェクトでは、被験者にどのような内容でアンケートを取るかや、アンケート結果の解釈について助言しました。
Q 本プロジェクトを通して、企業および製品が新たに得た価値について、研究者の立場でお聞かせください。
触感アンケート結果に基づいて作成された評価チャートは、「なんとなく」や「たぶんこうだろう」ではなく、得られたデータに対して適切な処理を行い導き出した、非常に価値のあるものです。
アンケートを収集するだけではなく、ユーザが理解しやすいように取捨選択するための手順の理解は、感性デザインを実現するためのキーでもあります。またそのプロセスを会社の方々が経験したことは、ノウハウとして蓄積され、次の製品開発時にも活用されていくだろうと思います。
Q 最後に、感性に着目したものづくりを目指すウッドワンさんにメッセージをお願いいたします。
ウッドワンさんは、無垢材の良さを活かした内装材や家具を製造・販売されていますが、それらの製品の良さをより正確に、また強いインパクトで伝えるために、本プロジェクトで得た「感性を客観的に評価するためのノウハウ」を活用していただきたいと思います。
一般社団法人感性実装センター
副センター長
/広島大学大学院客員教授
農澤隆秀
Q 本プロジェクトは研究者が3名参画されていますが、対象に対する学術的・技術的貢献について、専門領域の視点からお聞かせください。
感性は、知覚による入力から引き起こされる高次の脳活動によって引き起こされるものです。それだけに、感性によるものづくりを進めるには、知覚研究の専門家や感性そのものを考える研究者との連携が必要です。足の触感の「足感チャート」であっても、人は視覚知覚によって触感のイメージを意識し身体で行動して、手で触ったり座ったりしながら総合的に触感を感じます。ここには、視覚知覚、触覚、力知覚などのマルチモーダル的な感性の研究が必要で、各々の研究者が相互に関連します。
さらに、このような基礎研究から人の感性に着目したものづくりを社会実装、すなわち感性実装を実現するには、企業の開発プロセスとして、感性マーケティング、対象となる顧客モデルの調査、知覚の見える化による顧客の心に触れる感性設計とエンジニアリング、そして顧客に対する感性視点での製品説明なども必要になります。これらは研究者だけではできませんし、エンジニアリングや開発プロセスをつなげる力も必要になります。つまり、企業の感性によるものづくりは、多くの方の知恵を結集することが必要で、知覚や感性の基礎研究を解釈した上で、感性マーケティングやエンジニアリングに反映するチーム活動が重要となります。
Q 感性評価実験を通して、企業および製品が新たに得た価値について、研究者の立場でお聞かせください。
床に対する足の触感は、これまで何となく述べられていたかもしれませんが、本プロジェクトの感性評価実験で、足の触感として意識するポイントが明らかになりました。ユーザに、このような視点で床材を感じてもらうことで、床材の意味・価値をはっきりと分かってもらえることが可能になります。つまり、住宅の施主(ユーザ)と、そのユーザの気持ちを解釈して設計される建築家との双方に、この床材の触感がもつ感性価値を分かっていただけます。その感性価値は、この床材は居間に、あの床材は廊下や玄関にと、製品を意識的に分かっていただくと共に、床材の機能的価値だけではなく、その人にとっての住宅や床の意味的価値をもたらすことになります。その意味的価値は、単なる床材ではなく、意味をもった床材としてユーザとの強い絆を創ることが可能になります。また、このような視点で開発された感性によるものづくりのプロセスは、新しい製品開発にも応用され、企業のゆるぎない開発プロセスになると考えています。
Q 最後に、感性実装の意義・将来性についてお聞かせください。また、感性に着目したものづくりを目指すウッドワンさんにメッセージをお願いいたします。
ウッドワンさんは、感性によるものづくりを真摯に理解しようとされ力強く推進されています。今回の感性実装プロセスの結果として、ユーザの床材の感性を理解すると共にウッドワンさんの床材への想いを整理することで、「足感チャート」として床材の感性軸による意味的価値を明らかにすることができました。
これからさらに、感性軸を構成する物理的な要素を明らかにし、その定量化による感性設計を進めることは、人の感性に着目したものづくりの基盤になっていきます。人の感性は知覚(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)による感性軸から総合的に推察できることを、本プロジェクトの推進で実感されてきたと思います。この実感は、ウッドワンさんの人の感性に着目したものづくりの見識となり、積み重ねられる仕事の要に育っていくと期待しています。共に実現していきましょう。
一般社団法人感性実装センター
上席研究員
/広島大学大学院客員講師
小澤真紀子
Q 本プロジェクトは研究者が3名参画されていますが、対象に対する学術的・技術的貢献について、専門領域の視点からお聞かせください。
実務研究者として、学術と実務をつなぐマネジメントの役割を担っています。本プロジェクトは、分析対象である表面加工された無垢床材の特性を捉えた検討、およびその意味・価値の創出に合致した、素晴らしいチームを編成することができました。
初回ヒアリングでウッドワンさんからうかがった内容は、その実現性について研究者たちと議論になり、実は今回実施の検討とは異なるものです。感性実装センターの運営母体である色彩生活コーポレーションでは、空間デザインの領域も担っており、床材の選定基準を理解していたため、その議論からある気づきが生まれました。それは、表面加工の床材というユニークな新規性に目が向きがちですが、フラットが中心の無垢床材という製品カテゴリー全体の評価軸が同質的で、その感性価値構造が未だ明らかにされていないということです。換言すれば、プロダクトアウト的な市場で、感性価値の創出すなわちユーザの床材に対する新たな選定軸の提供を示唆します。そこで「ウッドワンさんにとって価値ある取組みは、まず無垢床材に対する感性の価値軸を明らかにすることでは?」と問いかけ、研究の枠組みを提案させていただきました。ウッドワンさんもその本質的な検討の価値をすぐ理解し意思決定され、プロジェクトがスタートしました。この問いかけは、ウッドワンさんが自社のアイデンティティの象徴である無垢床材という商材を、新たなフレームで再解釈・再定義する起点に貢献したのではないでしょうか。
Q 本プロジェクトを通して企業・製品が新たに得た価値について、実務研究者およびプロジェクトマネジメントの立場でお聞かせください。
感性実装センターは、企業と研究者がチーム一丸となり研究・分析検討に取組むことを特徴としています。それには両者の相互理解および共通言語も必要になります。このような背景から、プロジェクトマネジメントも担う実務研究者の重要な役割の一つに、企業が抱える実務的・社会的課題をアカデミックな枠組みに翻訳し、感性研究者の学術的・技術的知見とつなげ、最終的に開発プロセスに反映するため企業独自の文脈で解釈し社会実装させる行為があります。基本的には企業とのファーストタッチポイントでのヒアリングが起点となるため、その重要性を本ケースにおいても実感しています。企業はHow to を考えがちですが、なぜ明らかにしたいのかというWhyを研究者に伝えるのはハードルが高いとの声を聞きます。本プロジェクトを通し、改めて手段ではなく、ものづくり企業の外的・内的環境を見極めた枠組みの提案、そしてその必要性を認知し受容する企業側のケイパビリティが、戦略的な感性実装の重要なドライバーの一つになることが確認できました。
感性評価実験の結果を部署横断的に解釈し定量化する行為は、ユーザと接点する企画営業側は開発の背景・過程を、技術開発側は市場・ユーザを互いに共有し、社内の議論や意思決定に感性に着目したものづくりという軸ができます。ウッドワンさんも実感していらっしゃると思いますが、これら一連の感性実装プロセスが何より組織および製品にとって価値あるアセットになると考えます。
Q 最後に、感性に着目したものづくりを目指すウッドワンさんにメッセージをお願いいたします。
本プロジェクトの推進と共に、チーム全員がスキルアップしていらっしゃることを身近で感じています。感性実装は、自社製品を既存とは異なる評価・価値軸で解釈し、最終的に開発プロセスに落とし込む行為を伴うため、プロダクトイノベーションの文脈も持ち合わせます。そこにはダイナミックな議論が必要ですが、ウッドワンさんは既成概念のみに依存せず柔軟かつ積極的な議論をされ、そのアウトプットとしてものづくりに感性という新たな軸を手にされました。無垢床材の感性軸による提案は、床材ドリブンで構成した空間に新たな意味を生起させ得ることも考えられ、実務研究者としても期待が高まります。
今後も感性実装を加速され、人の感性に着目したものづくりを成熟していかれることと思います。その挑戦は、ウッドワンさんが大切にしてこられた、木を育て加工し製品化するサステナブルなビジネスモデルをも包含する、人への豊かなメッセージ性をもつ高次元の概念に成長するかもしれません。これからも共に切磋琢磨していきたいと考えています。
広島県立総合技術研究所
西部工業技術センター 主任研究員
/一般財団法人日本人間工学会理事
横山詔常
Q ウッドワンさんの課題や目標をうかがい、広島大学および感性実装センターを紹介しようと考えられた背景・理由についてお聞かせください。
元々、ウッドワンさんとはひろしま感性イノベーション推進協議会のマッチング会にて、「床材の心地よさなど身体に与える影響について定量化したい」というお声掛けをいただき、当所と県立広島大学さんとウッドワンさんの3者にて共同研究を実施しました。そこでは、心理的な影響、姿勢や動作への影響など複数の実験にて基礎的なデータの蓄積を行いました。
その後、「顧客への訴求のために脳機能の解析を行いたい」というご相談がありましたが、当所では対応が難しく、また販路をふまえたマーケティングなど戦略的視点をもち実施した方がよいと考え、広島大学の農澤先生を通じ感性実装センター様のご支援を賜った次第です。
Q 今まで製品に対する計測を通して幅広い技術支援をされてきています。それらの蓄積がどのように発展的に影響したかお聞かせください。
私は、学生の頃から「技術を人間化する」をモットーに、ヒトとモノとバ(環境)とのインタラクションに興味を持ち、ヒトに関する様々な実験や測定に携わってきました。今回のウッドワンさんの件でも、先ほどの質問でお答えしたように、事前の研究にて、床材の訴えたい機能についてフィッシュボーン解析にて要件整理をし、優先順位をつけて、床材の触り心地、歩行や立位バランスへの影響、温かみの定量化など、心理・生理面での幅広い実験を行いました。
これらの実験デザインや解析方法などは、ウッドワンさんとも共有できていますし、この基礎的な実験があったからこそ、この度の「感性実装」という応用的なステップにうまく「繋ぐ」ことができたのではないかと考えています。地域として、このような事例が増えれば嬉しいですね。
プロジェクトチーム
農澤隆秀
一般社団法人感性実装センター 副センター長/広島大学大学院客員教授
小澤真紀子
一般社団法人感性実装センター 上席研究員/広島大学大学院客員講師
栗田雄一
マテリアルデザイン研究協会理事/広島大学教授
横山詔常
広島県立総合技術研究所西部工業技術センター 主任研究員/一般財団法人日本人間工学会理事
池岡知紀
株式会社ウッドワン 商品企画開発部 商品企画室 室長
間宮僚太郎
株式会社ウッドワン 商品企画開発部 商品企画室 商品企画課 プロダクトマネージャー
畑中真臣
株式会社ウッドワン 商品企画開発部 商品企画室 商品企画課 デザイン担当
阿部稔
株式会社ウッドワン 商品企画開発部 商品企画室 プロモーション課 係長
菅田啓子
株式会社ウッドワン 技術開発部 基礎開発課 課長
往藏麻衣子
株式会社ウッドワン 技術開発部 基礎開発課
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